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名古屋地方裁判所 昭和50年(ワ)1290号 判決

原告亡石塚甚三

訴訟承継人兼原告

石塚友昭

外七名

右承継人ら及び原告ら

訴訟代理人

田中一男

外一名

被告

木下嘉

右訴訟代理人

野呂汎

主文

原告亡石塚甚三訴訟承継人ら及び原告らの被告に対する本件各訴をいずれも却下する。

訴訟費用は右承継人ら及び原告らの各負担とする。

事実《省略》

理由

一亡石塚甚三訴訟承継人らが本訴請求原因として主張するところは次のとおりと解される。

すなわち承継人らの先代亡甚三は被告に対し継続的に金員を貸付けることとなつた。そこで甚三は、被告との間で将来発生すべき多数の貸金債権を根担保するため、本件土地、建物について甚三を権利者とする売買予約を締結し、本件仮登記を経由したうえで、被告に対する金員の貸付けをなした。その後昭和三六年頃、森清一及び鷲見正義もそれぞれ被告に対し継続的に金員を貸付けることとなり、甚三、森清一及び鷲見正義と被告との間で、以後本件土地、建物を、甚三のみならず森清一及び鷲見正義の被告に対する各貸金債権の根担保とすることとし、予約権者を右の担保権者三名とする内容に、従前の甚三被告間の売買予約を変更する合意がなされた。しかし、右変更に伴う登記手続は別段とられず、甚三のみを権利者とする本件仮登記が抹消されないままとなつていた。

しかるところ、被告は甚三、森清一及び鷲見正義に対する債務を弁済しなかつたので、甚三は右売買予約完結権の準共有者の一人という立場で、保存行為として、被告に対し、売買予約完結の意思表示をなしたうえ、本件土地、建物について、本件仮登記に基づく本登記手続及びその明渡を求めるというのである。

二よつて按ずるに、一人の債務者に対する複数債権者の各債権を根担保するために、その複数債権者と債務者が債務者所有の不動産について、複数債権者を共同の権利者(売買予約完結権者)とする売買予約を締結した場合、その売買予約自体を無効とする理由はなく、複数債権者は売買予約完結権を準共有する関係にあると解すべきである。しかして、売買予約完結権の行使、すなわち、債務者に対する売買予約完結の意思表示及びこれに伴う売買予約の目的物件の明渡、移転登記を求める訴の提起は、売買予約完結権の処分行為に外ならないから、保存行為として複数債権者の内の一部の者のみでこれをなすことはできないものと解すべきである。したがつて、売買予約完結の意思表示自体、右複数債権者全員によつて、共同行使されるべきものであり、債権者が債務者に対して予約が完結された売買目的物件の明渡、移転登記等を求める訴は、必要的共同訴訟として、売買予約完結権を準共有していた債権者が全員で提起すべきものである。

これを本件についてみるに承継人らの主張によれば、本件土地・建物についての売買予約完結権は甚三、森清一及び鷲見正義の三名が準共有していたもの、したがつて現在は甚三の相続人たる承継人ら、森清一の相続人たる森、恒吉幸子、森茂及び堀田朝子並びに鷲見正義の準共有にかかるものであるというにもかかわらず、予約完結権は甚三が単独行使したというのであり、本訴が甚三のみによつて提起され甚三の死亡に伴い、その相続人である訴訟承継人らが本訴を追行していることは訴訟上明らかである。

そうすると本訴は本件土地・建物についての前記売買予約完結権を準共有する者全員により提起されていない点において不適法であるというほかない。しかして、この理は、本件土地、建物について、甚三と被告との間における売買予約の締結と本件仮登記の経由があり、のち右売買予約につき甚三のほか森清一及び鷲見正義をも権利者とする旨の変更契約がなされたが本件仮登記はそのまま残存しているという承継人ら主張のような事情が存する場合であつても異るところはない。けだし、本件は売買予約の当事者たる甚三、森清一、鷲見正義らと被告との間における当該売買予約の実行方法の問題である以上、本件仮登記が存在することにより予約完結権を準共有する者の一部のみによる売買予約完結権の行使と訴の提起が可能となると解する余地はないからである。

以上の次第で、本訴は不適法として却下を免れない。〈後略〉

(山田義光 秋元隆男 久江孝二)

物件目録《省略》

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